もはや頼れるのはこのお方だけ! 誤植(?)から誕生した妖怪アマビエ出世物語
あなたはこんな古の出来事をご存じでしょうか……?
時は江戸時代後期の弘化3年、西暦で言えば1846年4月のこと。
九州は熊本、当時は肥後国の海に謎の発光体が現れた。
そこで藩の役人が検分に赴いたところ、海中から異形の怪物が現れ、
「我はアマビエと申す者なり。向こう6年は豊作が続くが、疫病も流行る。その時は我が姿の絵を人々に見せよ」
と告げるや海に没した。
そして江戸に送られたのがこの絵だという、妖怪「アマビエ」の顛末。
……と写真の瓦版を紹介するとこんな感じでしょうか。
その後、幕末や明治時代にもコレラなどの疫病が流行るたびに疫病退散を願い、この「アマビエ伝説」も流布しましたが、
新型コロナウイルスに苦しむ令和においても、見事に復活を遂げています。
しかし、瓦版のアマビエ様は「絵を見せよ」と言ってはいますが、疫病を治す・防ぐとは明言していない、なんとも無責任なお告げでもあるんです。
そういえばアニメ版『ゲゲゲの鬼太郎』でも、
第5期に準レギュラーで登場した妖怪アイドル「アマビエちゃん」が、しょーもないお告げを連発して妖怪横丁を騒がせていたので記憶にある方もおられるかもしれません。
令和の「アマビエ伝説」復活はSNSから
そのお告げのご利益はさておき、
令和の「アマビエ伝説」復活は、新型コロナウイルス感染が始まった2月頃からTwitterで広まりました。
ただし、当初から新型コロナウイルス終息を願う人々の希望となった、わけではありません。
まずは、この瓦版に描かれた絵心ない芸人をも凌駕する、強烈な「画伯」テイストのインパクトにより、アマビエは新型コロナウイルス関連では数少ないほっこりする話題としてネット上で拡散。
そして3月には、この瓦版を所有する京都大学附属図書館が
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、利用者のみなさんにはいろいろとご迷惑をおかけしております。
疫病の際に絵を描いて見ると良いとされる妖怪アマビエを置いておきますね。貴重資料デジタルアーカイブで公開されておりますのでご活用ください。https://t.co/CR33QLq7WI pic.twitter.com/I5xu6IIJhN— 京都大学附属図書館 (@kumainlib) March 6, 2020
と、二次創作使用フリーを許可したことから、
多くのクリエイターがアマビエを素材とした漫画、アニメ、イラスト、クッキーなどさまざまな創作物をネットで公開する、
「アマビエ祭り」
「アマビエチャレンジ」
と呼ばれる現象が起こり、
アマビエ様の存在は一般にも広がり始めました。
あ、ちなみにこちらは水木しげる先生の描いた「アマビエ」。
(もちろん描かれたのは、このブームのずっと前ですよ)
「アマビエ」です。水木しげるの原画を撮影しました。
江戸時代、熊本の海に現れ「疫病が流行ったら私の写し絵を早々に人々に見せよ」と言って海中に姿を消した妖怪、というより神に近い…もの。
現代の疫病が消えますように。 pic.twitter.com/0P7HfyRe8h— 水木プロダクション (@mizukipro) March 17, 2020
結構、瓦版の絵に近いですねぇ。
さらに4月になるとアマビエの存在はネットから市中にも伝播し、
ついには厚生労働省の新型コロナウイルス対策啓発画像にも登場し、
いまや国をあげてアマビエ様を頼る状況となっています。
アマビエ様で予防意識を拡散
他にも、群馬県の渋川市立図書館では
「アマビエぬりえ」を公開。
子どもたちへのウィルス対策の周知に一役買っているようです。
近頃の合言葉は「手洗い、うがい、おまじない」な渋川市立図書館です。「おまじない」部分は展示ホールのアマビエ様に頼っています。このアマビエ様をぬり絵にして配布したところ、いつも利用してくれる小学生が、こんな感じに塗ってくれました。
鬼滅のアマビエ…
強い…
小学生の応用力、すごい… pic.twitter.com/1tJGl9afNl
— 渋川市立図書館 (@shibukawa_tosho) April 3, 2020
まっさらなぬりえのダウンロードはこちらから。
ツイートには「#渋川市立図書館 を付けて頂けると、さらに嬉しいです。」とのこと。
そして、こちらのガチャガチャも話題に。
マイム・コーポレーションという上野にあるメーカーさんが、国産ひのきを使って製造した『アマビエ木札ストラップ』。
200円というお手頃価格ということで、『ダンラク』ライターの坪内悟も思わずゲット。しっかりスマホにつけてます。
さらに『ダンラク』の運営会社ダンクのある東京・秋葉原でも、
和洋菓子屋の「松屋」さんがこんな商品を販売しています。
この『AMABIEどら焼き』のパッケージイラストは、絵心のあるご主人の手によるものなんだそう。
「和洋菓子 松屋」さんは秋葉原駅近く昭和通りに面した創業200年の老舗菓子店。
ダンクグループの中では、その立地から「(牛丼の)松屋のとなりの松屋」と呼ばれています(笑)が、実際にはビルを1軒はさんでいます。
期間限定の『桜を見る会どら焼き』も気になるなぁ……。
最後にアマビエの名前ですが、同様の言い伝えがある「天彦」、「尼彦」、「海彦」(いずれもアマビコ)が誤って伝えられたという説もあるんですよ。
つまり瓦版の誤植によって流布した結果、定着した名前だとも。
校正従事者としては、ちょっと他人ごとではないですね。
くれぐれも名前の確認は忘れずに。