売れっ子漫画家になれるかもしれないんだけど質問ある?~漫画能力検定奮闘記~
おいどん、物心ついた頃からお絵かきが好き。見よう見まねでアニメやら漫画やらの絵をなぞって描いたり、お話を作って挿絵を付けたり。読むだけじゃなく、描いちゃう側の人だった。そう…おいどんにとっては、漫画なんて見るもんじゃない、語るもんじゃない、描くものだから…!!(なみえかん)
この国の「漫画」というものの立ち位置は、他の国ではちょっと見られない、特殊なものです。コミックマーケットに見るように、プロアマ問わず、上手い下手に関らず誰でも自由に漫画を描き、それを発表する場所がある。最近ではツイッターやインスタなどSNSに作品を載せている人もたくさんいますよね。まさに日本は一億総漫画家国家!
そんな時、面白そうな資格試験に出会いました。こんなんあるんか…!!
分かりやすく言うと、日本の国技でもある漫画(?)における表現力を問い、専門家がその技能を測り認定する、というもの。大学出てからウン十年、試験の類はとんとご無沙汰だぜ。受けてみてえ…認定されてえ…!
受験するに当たり調べてみますと、漫画能力検定には「漫画キャラクター検定」と「漫画家アシスタント検定」の2種類があり、おいどんが受験する「キャラクター検定」は1級から4級まで、難易度によって6つの階級があるようです。文章で指示されているキャラクターのアップ図を鉛筆で描くだけのものから指定されたシチュエーションで、専用のペン類やトーン類を使い複数のキャラを背景込みで描き分けるというなかなかに難しいものまで!
しかしおいどんは怯まない。ここは最上級の1級を受験してやろうじゃないのさ!!自己流でもウン十年お絵かきしてきたんだから!!
ここで「ん?」となる。
どうやら付けペンとインクを使って紙に描くという試験らしい。スクリーントーン(という模様が印刷された半透明のシール状の漫画制作用品)も使用するらしい。線がはみだしちゃったりしたらホワイトで修正するらしい。ええーー!
そんなアナログな作画方法は10年以上前に卒業したよ!!!!
今はクリスタとペンタブ使ってPC上で描いてるよ!!!!
前は墨汁だのGペンだの丸ペンだの面相筆だの使ってたけどとっくの昔にしまい込まれておそらく半分朽ちてるよ!!!!
200枚くらい持ってたトーンもとっくに燃えるゴミに(以下略)
そうです。プロの漫画家さんやコミケとかに参加している同人作家さんたちも、今はもうほとんどがデジタル作画に移行しています。実際に本を作っている人たちはともかく、SNSで作品を公開してる人なんか、下手したら描き上げるまでに1枚の紙も使ってないんじゃないか。
しかし、公正を期すため、純粋に自分自身の持つ技術だけで勝負するのならばアナログ形式になるのは仕方がないことです。なにしろ今のデジタルお絵かきツールはビックリするくらい色々な機能が備わっていますから…!!
というわけでおいどんはかつての戦友たちを呼び戻すこととなりました。丸ペンはだいぶ錆びている。グロスで買ったペン先がまだ残ってて良かったな。修正用ホワイトはガッチガチに固まっている。水で溶けば使えるか…?黒ベタ用筆ペンとマッキーは…まだ大丈夫。またお前たちに再会する日が来るとはなあ。名残惜しくて捨てずに取っておいたおいどん、正解!
でもトーン類だけは再び調達しなければならなかったのでものすごく久しぶりに世界堂へ。ここはありとあらゆる画材が揃う専門店。都内を中心にいくつか店舗がありますが、おいどんの行きつけはずーっと昔から新宿店です。
ああ~懐かしい我が郷愁の世界堂…アナログ時代は毎週のように通っていた、どんな画材でも揃う夢のワンダーランド…久しぶりね。忘れていたわけじゃないのよ。時計の針が少し進んでしまっただけなのよ。元気そうで嬉しいわ。様々なものがデジタル、データ化、脱ペーパー化しても、世界堂はあの頃の賑わいを失っていませんでした。数が減ったとはいえ手に筆を持って絵を描く人は今も健在なのです。そんなもんです。
で、諸々の画材やなんかを急遽揃えまして…試験会場に向かいました。
試験会場はココです。お茶の水にある、「ワイム貸会議室」。綺麗なビルでした。
おお、エレベーターもエスプリの効いた挨拶をしてくれている…!これは頑張るしかあるまい!(でもこんなことしちゃダメだぞ)
無事試験会場に入り…ここで、半分想定していたことが起きました。漫画能力検定・キャラクター検定1級受験者は、まさかのおいどん一人!
いや、考えてみりゃ当然のことです。前述した通り、この日本という国では誰でも自由に漫画なりイラストなりを描き、発表することができます。わざわざ誰かのお墨付きなんかもらわなくたって、やりたい奴は勝手にやるんです。だから本来こういう資格なんて、価値あるんか…?とは言わないまでも大した意味なんてないんです。じゃあなんでお前はそんなヒマなことをやっとるんだと言われれば、「オモシロそうだから」と言うしかない。他には…そうだな、掴み損ねた夢を、弔っているんだよ…(遠い目)
しかしまさかだだっ広い部屋においどん一人だけで試験、ということはありません。他の級の受験者、そして「似顔絵検定」の受験者と一緒に試験に臨むことになります。
「似顔絵検定」は芸能人などでも資格を持つ人がちらほらいるほどの、人気の高い試験です。確かに、何かの機会にちゃちゃっと人の似顔絵を描けたら便利だし、重宝されますよね。おいどんが受験した会場にも、10人前後の受験者がいました。
受験者がおいどん一人だからって、臆してはならない。とりあえず準備を始めます。
漫画能力検定は下描きからペン入れ、仕上げまでこなさなければならないので道具が多い。こだわりの配置もある。自宅じゃないんでインクの容器や筆洗を倒さないように気を付ける必要もあります。ところがバタバタと進めるうちに、おいどんは自らの大変な失態に気づいたのです。
会場に、時計が無い!
血の気が引きました。普段から、腕時計などをする習慣がない上、スマホ等の電子機器は当然使用禁止ですから時計として使うことはできません。検定は180分。さすがに勘だけで時間配分をするには難しい長さです。ど…どうする…!?
しかし天はおいどんの味方でした。
他の級や似顔絵検定の試験は、それぞれ制限時間が違います。1時間で終わる試験もあれば2時間で終了するものもあります。おいどんはその中で最長の3時間ですから、試験を終えた皆さんが退室していくタイミングで、大体の残り時間を知ることができたのです。(そしてそれは、最後の1時間はおいどんがたった一人で試験を受け続けるという、かなり寒い経験をすることを意味したのであった…)皆さん、時計は常備せよ。
漫画能力検定・キャラクター検定1級の試験内容は、2種類ある設問のうちどちらか一つを選び、指示通りの作画をする、というもの。まずシチュエーションの説明文があり、どういう情景なのかが示されます。次にキャラクターの説明。どういう服装なのか、何を持っているのか、誰に何をしているのかなどが書かれています。それらの条件を全て踏まえた上で、一枚の解答用紙内に収めて描くわけです。
おいどんが受けた試験の設問は、小学生のお子らがキャッキャしているものと20歳過ぎのイケメン(とは書いてなかった)がキャッキャしているもの。ま、当然後者を選択しますわな。
説明文を読みながら、頭に浮かんだイメージを簡単に問題用紙の隅に描いていく。大体こういう作業の9割はインスピレーションなのよ。で、更に詳しく説明文を吟味し、細かい要素を付け足していく。構図が8割がた決まったら、解答用紙にざっくり下描きを描いていくって寸法よ。(なぜ8割かというと描いていくうちに色々調整することになるから)よしよし、じゃあ始めますぞ。
だがここで最大の敵が現れた。
老眼である。
なん…だと…?若い人には分からんだろうが、とにかく近くが見にくい。そのせいで細かい線が描けない。おいどんは普段メガネっ子なのであるが、仕方なしに眼鏡を外してギリギリまで顔を近づけて描く。老化というものは、かくも恐ろしいものなのか。眼鏡を外してしまうと今度は遠くにあるインクの容器やペン類の位置が分からない。ストレスハンパない…!!
しかもアナログでの描画なんて10年以上前に卒業しているわけです。描くほどに鉛筆の粉が擦れて用紙がめっちゃ汚れる。消しゴムで消しゃいいことだけどなんか気に障る。記憶をたどりながらの作業…えーっとこういう時どうしてたっけ…?しかし昔取った杵柄とはよく言ったもので、割と身体が憶えています。多少手間取りつつも、もう全くと言っていいほどやることの無くなった、「鉛筆の上からのペン入れ」、「用紙全体への消しゴムかけ」はそこそこスムーズに進みました。でも久しく見ることのなかった大量の消しゴムのカスにはちょっと引いた。
そして迷いに迷った挙句に選んだ2枚のスクリーントーンも大当たりで、的確な効果を出すことができました。神よ、俺を愛しすぎだぜ。(…当然愛しすぎなどではなくそもそも汎用性の非常に高い2種を選んだだけである)欲を言えばもう1枚、砂目のトーンがあれば言うことなしだったが、そこはそれ。諦めも肝心ってこった。
前述のとおり、広い室内でたった一人、1時間余りの試験時間を過ごすおいどん。もうこの時点で、なんか開き直ってました。昔から絵を描き始めるとハイテンションになるんだもん楽しすぎて。「もおエンジョイしちゃお☆」ってな感じでした。(痛い子感)
試験監督さんによって、10分の残り時間が知らされたら後はもう、最終確認です。下描きの消し残しはないか、トーンがズレているところはないか、ホワイト修正はキレイにできているか…長い間、フツーにやってきたことを、久しぶりにここでもまたやりました。なんか感慨深え。
セミプロとはいえ長年漫画を描き続けてきましたから、作品を作る上でのポイントというのはおいどんもそこそこ押さえています。おこがましいながらどういった作品が「評価」されるか、ある程度は分かります。ですので人物の描き分けだったり、動きの表現、背景の処理など、お約束ともいえるような基本的な技術を問う出題だったことは感心しました。そう、出題する方だってプロなんだぜ…!
なんとか試験を終え、解答用紙(ICの漫画用原稿用紙であった)を提出して模範解答例を受け取り、退出します。お疲れさまでした。試験監督2名とおいどん。正直微妙なエンディングでした。
解答例を確認し、自分が描いたものと絵柄の違い以外にさほどのズレは無いことを確かめて一安心。指定された物を持つ手が逆だったり、服装が間違っていたら致命傷ですのでね。後は先生方がおいどんの表現を受け入れてくださるかどうかです。こればっかはホント個人差なので。(ちなみに解答例は用紙ヨコ描きでした。おいどんは自信満々にタテで描いたので、一瞬キョドりましたが用紙の使い方に指定はありません)
そして試験から1か月後…いよいよ合否発表の日がやってきました。司法試験とかじゃないんで合格したからと言って何が変わるわけでもないのですが、昔取った杵柄的なことを真剣にやったという謎の達成感はありましたので、良い結果が出ればと思ったのは事実です(笑)本人確認が難しいという理由で、メールや電話での通知は来ず、サイトで受験番号と生年月日を入力しての確認です。それなら何故申し込みの時点でメールアドレスを登録する必要があったのだろう…
まあいい。気を取り直して受験番号を入力します。これが長い。覚えられない。13桁ある。これが老化げ…いやいや、何とか入力して、いざ確認!
「合格おめでとうございます」
!!!やったー!!!
みんなー、おいどんはやってやりましたばいー!
こうしておいどんは漫画能力検定・キャラクター検定1級に無事、合格することができたのでした。うーん、こりゃ売れっ子漫画家目指して頑張るっきゃないかなー?(20年遅いのである)
なかなかに楽しい試験でした。社会的な価値は正直ほとんどありませんが、ささやかな自己実現には十分役立つと思われます。絵を描くことが好きな方は挑戦してみてはいかが?デジタル作業に完全移行してしまっている場合は、付けペンだのトーンだのを掘り起こす必要がありますが…!
【資格データ】
漫画能力検定・漫画キャラクター検定1級
主催:特定非営利活動法人 日本漫画能力検定協会
難易度:★★☆☆☆(個人の能力差による)
次回は番外編も公開
ストロベリー・スマッシュブレイド
旅スレを徘徊する絵師。ウサギとゴシック&ロリヰタをこよなく愛す。全体的に黒い。
梅干し大好き。 Macのこととなるとキョドりがち。フォカヌポウwww